今回は、私自身の腰痛と立ち方について書いてみようと思います。
もう20年くらい前の事ですが、私はある武術で「仙骨を入れる」という身体操作を教わった時期がありました。これは腰を反るのとは逆方向で、腰を丸めるようにします。私の感覚では、仙骨が下側から前へ入るようになり、腰椎の反りが小さくなっていきます。
この身体操作を取り入れて以来、私は腰が反らないようにすることが正しい立ち方だと考え、日常でもその状態を保つようになりました。
それから数年で腰に違和感が出始め、約10年後には痛みが慢性化していました。重い物を持ったときには、ぎっくり腰になることもしばしばありました。そこからさらに約10年が経った現在まで、痛みは徐々に強くなり、朝起きたときにはすでに腰が痛いという状態にまでなっていました。
このように、私は長い間、右腰の痛みに悩まされてきました。接骨院や整体にも通い、稽古の中でもさまざまな身体の使い方を試しましたが、私の実感としては、ほとんど効果がありませんでした。
ところが、ここ1か月ほど立ち方を変えたところ、長年ほとんど変わらなかった右腰の痛みが大きく軽減しました。まだ少し痛みは残っていますが、私にとっては奇跡に近い変化です。
その立ち方とは、簡単に言えば「腰を十分に反る」立ち方です。
腰を反ると腰痛になるのか
「腰を反る」と聞くと、多くの方は反り腰を思い浮かべるかもしれません。
一般には、反り腰と腰痛を結びつけて説明されることがあります。そのため、腰を反らせること自体が身体に悪いと思っている方もいるでしょう。
しかし、私は「腰が反って見えること」と「腰の筋肉を緊張させ、無理に反らせていること」は別だと考えています。
私が行っているのは、背中側の筋肉を強く収縮させ、力で腰を引き上げる立ち方ではありません。胸を張り、腰だけを後ろへ押し出して、外見上の反りを作っているのでもありません。
上半身の重さを肚へ落とし、足から伝わる力も肚に集める。その状態で立つと、結果として腰が十分に反ります。
腰を筋力で反らせているのではなく、肚に重さが落ちた結果として腰が反るのです。
この違いは、外見だけでは分かりにくいかもしれません。しかし、自分の身体の中で起きている感覚は、まったく異なります。
肥田式強健術に見られる腰の反り
肥田式強健術の立ち方を見ても、腰はかなり大きく反っています。写真や外形だけを見れば、一般にいわれる反り腰に見えるかもしれません。
しかし、腰の形だけをまねて、背中側の筋肉で強引に反らせても、同じ身体の状態にはならないでしょう。
重要なのは、どれくらい腰が反って見えるかではありません。身体の重さがどこへ落ち、地面から返ってくる力がどこへ集まっているかです。
肚に上半身の重さが載り、足元からの力も肚へ伝わる。その上下の力が肚でまとまると、腰には十分な反りが生まれます。
私が現在感じているのは、そのような立ち方です。
反りを作るのではなく、反れる身体にする
これは、腰の可動域の問題でもあるのではないかと考えています。
腰を反ることができるのに、無理に反らせないよう固定することと、背中側の筋肉だけを使って限界以上に反らせ続けることは、同じではありません。
反るための可動域を保ちながら、その範囲の中で自然に立つ。私の場合は、その状態のほうが肚に重さを落としやすく、腰に余計な緊張が生まれません。腰が十分に反れる状態を保ったうえで、肚に重心を落とすようにしています。
その結果として、長年続いていた右腰の痛みが大きく軽減しました。
もちろん、この経験だけで、腰の反りと腰痛の関係を医学的に説明することはできません。また、私に合った立ち方が、すべての人に合うとも限りません。
しかし少なくとも、「腰が反っているように見えるから、それが腰痛の原因である」と単純に結びつけることはできないのではないかと思います。
同じように腰が反って見えても、背中側の筋肉を緊張させて無理に支えている状態と、肚に重さが落ちた結果として自然に反っている状態では、身体の内側の使い方が異なるからです。
形ではなく、身体の中で確かめる
現在、この立ち方をすると、肩が自然に下がり、胸が大きく開き、呼吸がしやすくなります。背中も首も丁度よく緩んでいます。そして、上半身の重さが肚へ集まる感覚があります。足元からの力も、腰や背中で止まらず、肚へ伝わってきます。
その状態で腰に触れてみると、確かに以前よりも反っています。しかし、腰の筋肉を強く縮めている感覚はありません。腰を十分に反らせていても、身体全体はむしろ楽に感じられます。
逆に、腰の反りを小さくしようとすると、上半身の重さが肚へ落ちにくくなり、右腰に違和感が出ることがあります。この違いを経験して、姿勢は外から見た形だけでは判断できないと、改めて感じました。
見た目には同じ姿勢でも、どこに力が入り、どこに重さが落ち、どこから動き出せるかによって、その内容は変わります。
「腰を反っているから悪い」「真っすぐに見えるから正しい」というものではありません。
長年の思い込みを見直す
武術を長く続けていると、立ち方や構えについて、さまざまなことを教わります。その一つひとつを試し、自分の身体で確認していくことは大切です。
しかし、一度「これが正しい」と思い込むと、身体に痛みが出ていても、その立ち方自体を疑わなくなることがあります。
私も長い間、腰を反らせないほうがよいと思い、知らず知らずのうちに腰の動きを抑えていました。普通に立っているときでも、少し仙骨を入れるようにして、腰が真っすぐになる姿勢を常に保っていたのです。
一見すると真っすぐに立っているように見えますが、実際には腰椎前弯のカーブを小さくするように、腰やお尻の筋肉を使って姿勢を維持していました。その結果、背中や肩、首にも常に力が入った状態になっていましたが、これが正しいと思っていたため、そのままし続けていました。
今振り返ると、この状態を長時間維持していたことが、身体への負担となっていた可能性があります。
今回は、ふとしたきっかけから、あえて腰が十分に反れる状態へ戻し、肚に重さを落とすようにしました。その結果、たった1か月間余りで右腰の痛みが大きく軽減したのです。
自分としては、かなり思い切ったことをしたと感じています。なぜなら、それまで正しいと思っていたことをやめ、間違っているかもしれないと思っていたことを、あえて始めたからです。
まだ少し痛みは残っているため、これで完全に治ったと考えているわけではありません。しかし、長年ほとんど変わらなかった状態を考えれば、私にとっては非常に大きな変化です。
これからも、稽古後や翌日の状態、立っていられる時間、歩きやすさなどを確認しながら、身体の変化を観察していきます。
私にとって今回の経験は、単に腰痛が軽くなったというだけではありません。
腰を反らせることを避けるのではなく、腰が十分に反れる可動域を保つこと。そして、背中側の筋肉で身体を引き上げるのではなく、上半身の重さを肚へ落とすこと。
肥田式強健術に見られる立ち方の意味が、今になって少し分かってきたように思います。
教わった形や一般的な説明を、そのまま正解とするのではなく、自分の身体で確かめる。
長年の右腰痛を通して、立つという基本的な動作の奥深さを、改めて教えられました。
※本記事は、私自身の経験と身体感覚を記録したものです。腰痛の原因や一般的な治療法を示すものではありません。腰を反らすことで痛みが強くなる方もいるため、無理にまねをしないでください。長く続く痛みや、しびれ、筋力低下などがある場合は、医療機関へご相談ください。
