前回の記事では、腰が十分に反れるように立ち方を変えたことで、長年続いていた右腰の痛みが大きく軽減した経験を書きました。
背中側の筋肉を使って無理に腰を反らせるのではなく、上半身の重さを肚へ落とす。その結果として、腰に自然な反りが生まれる立ち方です。
この立ち方について考えていたとき、ふと子どもの姿勢を思い出しました。
幼い頃のお腹が出た立ち方
幼児から小学校低学年くらいまでの子どもには、お腹が前へ出て見える立ち方がよくあります。私の子どもも、幼い頃にはそのように立っていました。
私自身にも、4歳くらいのときの記憶があります。
玄関の前で写真を撮ったとき、自分のお腹を見て、
「どうして、こんなにお腹が出っ張っているのだろう。太っているのかな?」
と思いました。
なぜその場面を覚えているのか、自分でも分かりません。しかし、幼い頃の記憶として、今でもとてもよく残っています。
当時の私は、姿勢をよく見せようとも、丹田を使おうとも考えていません。腰を反らせようと意識していたわけでもありません。ただ自然に立っていただけです。
それでも写真を見ると、腰には自然な反りがあり、お腹が前へ出ています。現在の私の感覚から見ると、上半身の重さが肚へ落ち、そこに身体がまとまっているようにも見えます。
子どもは、誰かから立ち方を教わらなくても、自然にそのような姿勢を取ることがあります。
そこから私は、年齢を重ねるにつれて、人は腰の自然な反りや、腰を反らす方向へ動かす能力を、少しずつ失っていくのではないかと考えました。
俗に「年を取ると腰が曲がる」といいます。その背景には、腰の反りを保つことや、腰を反らす方向へ動かすことが難しくなる変化も関係しているのではないでしょうか。
私も以前は自然に腰を反らせていた
私の場合、ある武術を始める前までは、子どもの頃と同じように、腰を自然に反らせて立っていたと思います。
おそらく、社会人になって数年くらいまでは、その立ち方が続いていました。
当時は腰の角度など意識していません。ただ普通に立てば、自然に腰の反りが生まれていたのです。
その後、「仙骨を入れる」という、腰の反りを小さくする身体操作を教わったことで、それが正しい立ち方だと思い込むようになりました。日常でもその姿勢を保ち続け、いつしか自然に腰を反らせて立つことができなくなっていました。
今回、腰が十分に反れる状態へ戻すことに強い違和感があったのも、以前は自然にできていた姿勢が、私の中で「やってはいけない姿勢」になっていたからでしょう。
私の感覚と研究結果
子どもの立ち方や、年齢による腰の変化について調べてみると、私の考えと一致する部分もあれば、単純には一致しない部分もありました。
幼い子どもに、お腹が前へ出て腰が内側へ反って見える姿勢があること自体は、子どもの身体的な特徴として説明されています。
一方、子どもの腰椎前弯は、成長とともに減っていくのではなく、むしろ増加する傾向があるという研究もあります。そのため、「幼い頃を頂点として、年齢とともに腰の反りが減り続ける」とは言えません。
成人以降については、年齢とともに腰の可動域が小さくなり、特に腰を反らす方向の動きが低下する傾向が報告されています。
つまり、私の考えがそのまま医学的に証明されたわけではありません。しかし、完全に否定されたわけでもありません。
また、私が子どもの姿勢を見て感じる「肚に重さが落ちている」という感覚は、医学研究で測定されたものではありません。これは、あくまで武術を学んできた私自身の観察です。
研究で測られる腰の角度と、武術における肚の感覚は、いったん分けて考える必要があります。
それでも、何も意識せず自然に立っていた幼い頃の自分と、正しい姿勢を意識し続けた結果、腰を反らせにくくなった自分を比べることには、意味があると思っています。
「正しい形」が身体を縛ることもある
先生から何かを教わると、私たちはそれを正しいものとして受け入れます。
しかし、教わった言葉を自分が間違って解釈していたり、その身体操作が自分に合っていなかったりしても、一度「これが正しい」と思い込むと、なかなか見直すことができません。
身体に違和感や痛みが出ても、
「自分の修練が足りない」
「正しくできていないから痛むのだ」
と考え、さらに同じ動作を繰り返してしまうこともあります。
教わった形を守ることが目的となり、自分の身体が発している感覚を無視するようになれば、その教えは大きな足かせになります。場合によっては、身体の不調につながる可能性もあります。
前回の記事で書いた私の右腰痛も、長年正しいと思って続けていた立ち方を見直したことで、大きく軽減しました。
私にとっては、自分の身体を通して「正しいと教わったこと」と「実際に自分の身体に起きていること」を、改めて分けて考える経験になりました。
鋭貫道が型に身体を押し込めない理由
鋭貫道は、決められた外形へ自分の身体を当てはめるための稽古をしません。
これは、何をしてもよいという意味ではありません。立ち方、力の伝え方、相手との距離、攻撃の方向など、学ぶべき原理はあります。
しかし、身長、体重、骨格、筋力、柔軟性は一人ひとり異なります。全員が先生と同じ形になることを目指せば、誰かには合っていても、別の人には無理が生じるかもしれません。
だから鋭貫道では、自分の内側から出てくる動きを観察します。
呼吸を妨げていないか。余計な力が入っていないか。重心はどこにあるか。そこからすぐに動けるか。実際に相手へ力が伝わるか。
先生の形をそのままコピーするのではなく、指導された原理を手掛かりとして、自分の身体で確かめます。そして、自分の身体から生まれた動きを技として磨いていきます。
それが鋭貫道の哲学であり、稽古方法です。
雙武會では、現在、一緒に稽古する仲間を募集しています。
武術や護身術に興味のある方、自分の身体を知り、これまでとは違う身体の使い方を学んでみたい方は、ぜひ一度、体験稽古へお越しください。
誰かの形に自分を押し込めるのではなく、自分の中にある動きを、一緒に探していきましょう。

参考資料
子どもの姿勢や、成長・加齢による腰椎前弯と可動域の変化について確認したい方は、以下の資料をご覧ください。
- 米国小児科学会「2歳児の身体的外見と成長」
幼児のお腹が前へ出て見える姿勢と、腰が内側へ湾曲して見えることについて説明されています。 - Cilら「小児期における脊柱矢状面配列の変化」
3歳から15歳までの子どもの脊柱を調べ、成長に伴う腰椎前弯などの変化を報告した研究です。 - Mac-Thiongら「成長期における脊柱と骨盤の矢状面配列」
4歳から18歳までの子どもを対象に、成長による腰椎と骨盤の変化を調べた研究です。 - Yukawaら「無症状者627人における腰椎配列と可動域の加齢変化」
日本人成人を対象に、年齢による腰椎前弯と可動域の違いを調べた研究です。 - Arshadら「年齢・性別が腰椎前弯と可動域に与える影響」
複数の研究を整理し、腰椎前弯と可動域には、年齢や性別による複雑な違いがあることを示しています。
※本記事の身体や姿勢に関する記述には、私自身の経験と考察が含まれています。特定の姿勢や身体操作を、腰痛の予防・改善方法として勧めるものではありません。
